2026年11月5日

【特別対談(前編)】AI時代だからこそ、“それなら、あの人に聞こう”と名前が挙がる人がたくさんいる会社にしたい

2024年、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)とアイレップの統合により誕生したHakuhodo DY ONE。異なる歴史や強みを持つ人たちが集まり、新たな会社としてのカルチャーを、まさにつくっている途中にあります。AIやテクノロジーの進化によって、仕事のあり方が大きく変わろうとしている今、どのような会社を目指し、そこで働く「人」の力をどのように捉えているのでしょうか。
今回は、博報堂DYグループのサステナビリティを推進する、博報堂DYホールディングス サステナビリティ推進室長の中島静佳と、Hakuhodo DY ONE代表取締役社長の北爪宏彰による特別対談をお届けします。実は二人の出会いは20年以上前にさかのぼります。
それぞれのキャリアからたどり着いた「人」への考え方、Hakuhodo DY ONEならではの強み、そして、まだ完成していないからこそ面白い「これからのHakuhodo DY ONE」について語り合いました。

(写真左から)
株式会社Hakuhodo DY ONE 代表取締役社長
北爪宏彰

株式会社博報堂DYホールディングス サステナビリティ推進室 室長
中島静佳

「結局は、人」。二人がたどり着いた、人を中心に置く経営

――お二人が出会ったのは、20年以上前だそうですね。

中島
そうですね。私が自動車会社から博報堂に転職した頃、仕事を通じて北爪さんと出会いました。

北爪
まだ駆け出しだった私にとって、中島さんは「できる先輩」という印象でした。

――その後、中島さんは博報堂でプロモーションやマーケティングなど、さまざまな領域を経験されています。サステナビリティ推進室へ異動されたときは、どのようなことを考えましたか。

中島
最初に「サステナビリティをやる」と言われたときは、「私たちは工場も持っているわけではないし、大量の廃棄物を出す事業でもない。何に取り組むのだろう」と思いました。でも、考えてみると、私たちの価値の源泉は結局「人」。だったらサステナビリティも「人」が大切なテーマになるだろうなと。実際にグループのさまざまな会社や職種の人たちを見ていくと、同じグループでも、世代や職種、性別や属性、キャリア経験などによって見えている景色が全く違うことにもあらためて気づきました。私が入社した頃はキャリア入社も少なく、今ほど女性も多くありませんでした。でも今は、キャリア入社や転職が当たり前になり、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちが働いています。だからこそ、「自分たちは何を大事にするのか、企業として、社員や社会の未来に何を残していくのか」という、みんなが信じられるものをきちんとつくっていく必要があると思ったんですよね。

――北爪さんも、2026年4月の社長就任時に発信されたメッセージで「人的資本経営」を掲げていますよね。

北爪
社長就任にあたり最初にメッセージを出すとき、自分の中では自然と「人的資本経営」という言葉が出てきました。当社は、工場や設備が競争力になる会社ではありません。会社の価値の源泉をつくっているのは、まさに「人」です。ただ、私が考える人的資本経営は、単に「社員を大切にしましょう」ということではありません。
一人ひとりの能力や可能性に着目し、それをどう引き出すのか。そして、それをどう事業の競争力に変えていくのか。そこまで含めて人的資本経営だと考えています。私は長くデジタル領域に関わってきました。テクノロジーが進化し、自動化やAI活用がものすごいスピードで進んでいます。しかしその一方で、「最後は人だ」と感じる場面はむしろ増えているんですよね。

AIが「How」を担うほど、人には「何をしたいか」が問われる

――AI時代になり、むしろ人が大事になる。では、これから人間が発揮すべき力は何だと思いますか。

中島
私は、「企み」の力だと思っています。知識やスキルだけではなく、その人が積み重ねてきた経験や、「こういうものをつくりたい」「社会をこう変えたい」という思いです。博報堂DYグループには、「この商品をこんなブランドにしたい」「社会をこう変えたい」と思っている人がたくさんいます。これは、人ならではの力ではないかと思うのです。

北爪
私も近い考えです。AIによって「どうやるか」というHowの選択肢は、これからより多くの人に開かれていくと思います。調べる、分析する、つくる、改善する。これまで一部の専門家が得意としていたことに、多くの人が取り組めるようになる。そうすると、人間に問われるのは、「では、何をしたいのか」ということだと思うのです。何を良しとするのか。誰のためにやりたいのか。何を変えたいのか。私は最近、社内のリーダーシップ研修で、「Will(意志)」「Strategy(道筋)」「Leadership(周囲を巻き込む力)」という三つの要素について話をしました。やはり出発点になるのはWillだと思っています。志でもいいし、「好き」でもいい。今感じている違和感でもいい。まず、自分なりの意志を持つ。でも、Willだけでは夢で終わってしまうので、今どこにいて、何が課題で、何を変えれば目指す姿に近づけるのかという道筋を考える。そして仕事は一人ではできないので、「一緒にやってみたい」と思ってくれる人を増やしていく。AI時代になればなるほど、そうした人と人が関わる力も大事になると思っています。

――一方で、AIを使えばできることが増えるからこそ、人が判断しなければいけないことも増えそうですね。

北爪
そうですね。もう一つ、AI時代に大事だと思っているのが、倫理観や美意識です。当社でも「
AI Experts ULTIMA」など、AIを活用したクリエイティブの取り組みが進んでいます。しかし、AIを使えば何をやってもいいのかというと、もちろんそうではありません。著作権や肖像権、ブランドセーフティー、社会的な受容性など、考慮すべきことがあります。法律だけでは決めきれないことも多いなかで、最後に「これは本当にやっていいのか」を判断するのは人です。だからこそ、テクノロジーが進化するほど、倫理観や美意識もますます重要になると思っています。実は当社では、有志が自発的に「クリエイティブ法務」というチームを立ち上げています。過去の判例や問い合わせデータを参照できる仕組みをつくるとともに、法令や権利に配慮し、人が倫理観や美意識に基づいて判断する。新しいことに挑戦する「攻め」と、それを支える「守り」の両方が必要なんですよね。

中島
AI倫理は、まだ法律やルールが追いついていない部分も多いですよね。そのなかで、先駆けて「
クリエイティブ法務」に取り組まれているのは、本当に素晴らしいことだと思います。自分たちで必要性を感じ、自主的にデータを集めて形にしているのがすごいです。

Hakuhodo DY ONEの人は、「考えて終わらない」

――ここからは「Hakuhodo DY ONEらしさ」について聞かせてください。中島さんはグループのさまざまな会社を見る立場ですが、Hakuhodo DY ONEの人にはどのような強みがあると感じますか。

中島
最初は、博報堂もHakuhodo DY ONEも同じようにデジタル領域の仕事をしているので、似た人たちなのかなと思っていました。しかし、実際にご一緒してみると、同じ目標に向かうにしても、山の登り方が全く違いました。私の感覚では、Hakuhodo DY ONEは「理学と工学のアプローチ」という感じです。論理やアルゴリズムを突き詰める「理学的な力」と、それを世の中で役立つ形に具現化する「工学的な力」です。博報堂が得意とするクリエイティブジャンプとは違う強みとして、Hakuhodo DY ONEは「成果を出す」という目的に向けた道筋の立て方がとてもロジカルで、実装する力や成果へのこだわりが強いと感じます。

――北爪さんから見ても、「実装力」はHakuhodo DY ONEらしさでしょうか。

北爪
まさにそうですね。社員の強みだと思うことは、考えて終わらないことです。データを見て、仮説を立てて、やってみて、結果を見て、また改善する。デジタル領域では、正解を考え抜いてから動くというより、まず動いてみて、正解に近づけていく世界です。実践のなかで答えをつくっていくカルチャーは間違いなくあると思います。もう一つは、「変化を恐れない、変化を楽しむ」ことです。昨日まで正解だったことが、今日は正解ではなくなる。新しいプラットフォームもテクノロジーも次々に登場する。わからないものが出てきたときに、まず触ってみる。面白がってみる。そこも当社の大きな強みだと思っています。

 

「マニアックなまでに、好きなことを掘り下げるプロフェッショナル」がたくさんいる会社にしたい

――北爪さん自身は、これからどのような「Hakuhodo DY ONEらしさ」を強めていきたいと考えていますか。

北爪
強い専門性を持つ、マニアックなまでに好きなことを掘り下げるプロフェッショナルがたくさんいる会社にしたいですね。ある領域が好きで仕方なくて、人よりずっと深く掘り下げている。誰かに言われなくても自発的に調べ続けて、気づけばその領域について誰よりも詳しくなっている。そういう、いい意味でのこだわりや探究心を持った人です。AIならこの人、データならこの人、クリエイティブならこの人、コマースならこの人。「それなら、あの人に聞こう」と自然に名前が挙がる人が、社内にたくさんいたらいいなと思っています。AIによって能力を底上げしていくからこそ、これから価値になるのは、一人ひとりが「この分野なら負けない」と言える専門性や尖りだと思うのです。その尖りが重なり合えば、組織はもっと強くなる。

――単なる「専門家」という言葉だけでは表しきれないところがポイントなのですね。

北爪
「専門家」だけでは手触り感がないのですよね。でも「マニアックなまでに、好きなことを掘り下げるプロフェッショナル」と言うと、「あの人のことだな」と思い出せる人が出てくる(笑)。私は、新卒の社員が挨拶に来てくれると、趣味の話を聞きます。趣味には、その人の強みが表れると思うからです。好きだから、これまでの人生で何十時間、何百時間、何千時間と積み重ねてきたものがある。それは、その人ならではの価値を、周囲に提供できるということです。尖っているものを丸めるのではなく、もっと尖らせていく。「マニアックさ」や「探究心」も、そのくらい身近なところから生まれてくるのかもしれません。

まだ完成していない。だから、今のHakuhodo DY ONEは面白い

――Hakuhodo DY ONEらしさそのものを、今いる社員のみなさんでつくっている。そう考えると、今このタイミングに同社で働くことには、完成された会社とはまた違う面白さがありそうですね。

北爪
やはり「これからつくり上げていける」ことではないでしょうか。設立からまだ2年の会社です。ここからみんなでつくり上げていき、それが5年後、10年後には、社会にとってもグループにとっても、より重要な存在になっていく。その過程に参加できるのは、今のフェーズならではの面白さだと思います。私たちにもWillがあるし、クライアントにもWillがある。プラットフォーマーにもWillがある。さらに、AIやテクノロジーの進化によって、社会そのものも変わっていきます。そうしたさまざまな声や変化を見ながら、「そのなかで、自分たちはどのような存在になっていくのか」を考えていく。5年後、10年後の会社のあり方を、私一人で決めるのは違うと思っています。社員のみんなと一緒につくっていきたいですね。

中島
Hakuhodo DY ONEは今とても面白いタイミングだと思います。私たちは、企業の統合や新しいブランドへの変革に関わる仕事もしています。Hakuhodo DY ONE はそれを自分たち自身で進めているわけですよね。自分たちで自分たちの会社をつくっていく。それって、最高に楽しいことではないですか。とても羨ましいです(笑)。

後編はこちら
【特別対談(後編)】デジタルで「人の機会」を広げる。Hakuhodo DY ONEが目指すサステナビリティ

中島静佳
株式会社博報堂DYホールディングス
サステナビリティ推進室 室長

自動車メーカーで商品企画に携わった後、2004年に博報堂へ入社。化粧品、金融、飲料、自動車など幅広い業種のマーケティングに従事。次世代店舗体験のデザインやビジネスエスノグラフィーのサービス開発を経て、2009年より博報堂買物研究所でショッパーマーケティング、購買行動データを活用したソリューション開発を推進。2017年よりマーケティング局にてブランディング、マーケティング全般でクライアントを支援し、2022年より博報堂DYホールディングス サステナビリティ推進室長。グループのサステナビリティ推進体制の構築、環境、人権、DE&I、社会貢献などの方針策定・活動を推進。「人を中心としたサステナブルな経営」の実現に向け、グループ横断でのサステナビリティ活動を牽引している。

北爪宏彰
株式会社Hakuhodo DY ONE
代表取締役社長

 東京大学在籍時の起業経験を経て、博報堂に入社。2006年より博報堂全社のデジタル改革組織に参画。顧客とのエンゲージメント視点に立ったブランド戦略プランニング、およびインタラクティブ領域を中心としたROI重視のマーケティングを推進。2010年よりHarvard Business School留学、2011年修了、アルムナイ資格取得。米国MarketShare社を経て、2013年よりアイレップ(現Hakuhodo DY ONE)に参画。マーケティング統括室長、コーポレートコミュニケーション本部長を経て、2018年に取締役CMO、2023年に常務取締役CROに就任。2025年より、Hakuhodo DY ONEの専務執行役員。2026年4月より現職。